臨床バイオインフォマティシャンのブログ

臨床に近いバイオインフォマティクス初学者です。NGSによる変異解析を紹介します。

ClinGen SVIによるPM3基準の推奨事項

解説 ClinGen SVI Recommendation of in trans criterion (PM3)


今回は、ACMGガイドラインのPM3について、ClinGenのSequence Variant Interpretation working group (SVI WG)が提言している事項を解説します。

ClinGen元記事はこちら

元のACMG/AMPガイドラインのPM3基準は、「劣性遺伝形式の疾患において、罹患者で病的バリアント (Pathogenic or Likely pathogenic)とtransに見出された」バリアントが該当します。
このPM3基準について、SVI WGは、発端者数、transで認められた他方のバリアントの病原性/接合性の種類およびtransかどうかの確認の有無をそれぞれ加味して、評価する方法を提言しました。内容を以下に表でまとめます。

表1. 発端者あたりの取得点数
他方のバリアントの
病原性/接合性
発端者あたりの点数
trans確認済み cis/trans不明
Pathogenic or
Likely pathogenic
1.0 0.5 (Pathogenic)
0.25 (Likely pathogenic)
ホモ接合性
(最大1.0点)
0.5 -
VUS
(最大0.5点)
0.25 0.0

注意: 他方のバリアントはPM2基準を満たしていなければならない (すなわち、十分に稀なバリアントであること)

表2. 病原性の強さを加味したPM3基準の判定点数
PM3_Supporting PM3 PM3_Strong PM3_VeryStrong
0.5 1.0 2.0 4.0

注意事項


transの確認方法について

発端者の2つのバリアントがtransかどうかの確認ための方法として、発端者の両親解析が用いられます。
本提言では、片方の親で、2つのバリアントのうち一方のバリアントが検出された場合、発端者において2つのバリアントはtransだったと評価して良いとしています。
そのため、片方の親としか解析の協力が得られない場合でも有用となります。

もう片方のバリアントの病原性分類

transで認められたもう片方のバリアントの病原性がVUSの場合、最大点数を0.5点に下げるべきとしていますが、 その下げ幅は遺伝子の大きさを考慮する必要があります。すなわち、遺伝子のサイズが大きいほど、もう片方のアレルにバリアントを有する可能性が高くなります (デフォルト: 0.25点)。
また、バリアント評価の循環を避けるために、PM3を評価したいバリアントはもう片方のバリアントのPM3の評価に含めてはなりません。

ホモ接合性の場合

ホモ接合性で検出された場合、点数をデフォルトとして0.5点とします。これは、稀なホモ接合性バリアントはしばしば血族婚により認められることを考慮したためです。 追加のデータがない場合に、ホモ接合性の過剰評価を防ぐために、最大点数は1.0点とすることを提言しています。

本提言を使用した例


常染色体潜性 (劣性)遺伝形式であるフェニルケトン尿症であるPAH遺伝子のNM_000277.3:c.1208C>T (p.Ala403Val)というバリアントに対して、PM3を評価する場合を考えてみます。
例えば、他の家系において、本バリアントが以下の他のバリアントとともに報告されているとします。

  1. c.1301C>A (p.Ala434Asp): Likely pathogenic、trans確証済み、1家系
  2. c.331C>T (p.Arg111Ter): Pathogenic、trans確証済み、1家系

以上の場合、それぞれ1点と判定され、合計2点となり、本バリアントはPM3_Strongに該当します。

感想


以前より、潜性遺伝性疾患で認められた2つのバリアントを評価する方法として、PM3基準がありますが、文献情報 (他の家系情報)をどの程度評価に組み入れるべきか議論の余地がありました。
本提言で発案された評価系は、複数の家系情報をスコアとして算定しPM3を評価できる点が非常に有用だと感じました。
ただし、いずれの場合でも、潜性遺伝性疾患を疑う場合のバリアント解釈には、過剰評価を防ぐ目的で発端者本人の両親解析が大切だと感じる点に変わりはありません。