ACMGガイドラインのPVS1を詳しく解説
更新: 2021/08/30 欠失の評価方法
今回はACMGガイドラインの基準の1つであるPVS1について、具体的な評価方法を紹介します。
ClinGenのSequence Variant Interpretation (SVI)ワーキンググループの論文 (Ahmed et al., Hum Mutat 39(11): 1517-24, 2018)により詳細な評価方法が提言されました。
目次
ACMGガイドラインに記載されているPVS1のおさらい
まずはPVS1の原文を引用します。
”null variant (nonsense, frameshift, canonical ±1 or 2 splice sites, initiation codon, single or multi-exon deletion) in a gene where loss-of-function (LoF) is a known mechanism of disease” (Richards et al., 2015)
このように、PVS1は「機能喪失 (Loss of function; LoF)が疾患の発症機序と考えられる遺伝子におけるヌルバリアント」として記載されています。
さらにACMGガイドラインでは、PVS1の考慮すべき点として疾患のメカニズムやスプライスバリアントの影響、早期終止コドンに伴うmRNA分解機構であるNMD (Nonsense-mediated mRNA decay)などを挙げていますが、残念ながらこれらの考慮すべき点をどのように考慮すべきかについては具体的に述べられておりません。
ClinGen SVIワーキンググループによるPVS1分類方法
ClinGen SVIワーキンググループ (以下、SVI-WG)の提言では、PVS1を評価するためのバリアントの種類や特徴に応じたフレームワークを具体的に示し、かつPVS1を根拠の強さによって複数にランク分けして評価するようにしました。
バリアントの種類ごとに紹介します。
ナンセンスバリアント・フレームシフトバリアント
- NMDが生じると予想される1
- NMDが生じると予想されない
スプライス部位 (±1-2)のバリアント
- エクソンスキップもしくは新たなスプライス部位の発生によりフレームシフトが起こり、NMDが生じると予想される
- エクソンスキップもしくは新たなスプライス部位の発生により読み枠がずれるが、NMDが生じると予想されない
- エクソンスキップもしくは新たなスプライス部位の発生するがフレームシフトが起こらないと予想される
開始コドン (スタートロスバリアント)
- 他の転写物においても同じ開始コドンを使用する
- 他の機能的な転写物が他の開始コドンを利用する場合→該当せず
重複 (エクソン単位かつ遺伝子内の重複の場合)
- タンデムであることが証明される
- フレームシフトが起こり、NMDが生じると予想される場合→PVS1
- フレームシフトとNMDへの影響が不明な場合→該当せず
- タンデムであることが推定される
- フレームシフトが起こると推定され、NMDが生じると予測される場合→PVS1_Strong
- フレームシフトとNMDへの影響が不明な場合→該当せず
- タンデムであることが証明されない→該当せず
欠失 (1つのエクソン~遺伝子全体)
一部特殊な例があり、機能喪失 (ハプロ不全)が疾患の発症機序として知られている遺伝子における遺伝子全体の欠失はその他の矛盾するデータがない限り、それ単独でPathogenicと分類します。
- 遺伝子全体の欠失の場合→PVS13
- 欠失のよりフレームシフトが起こり、NMDが生じると予想される
- 欠失によりフレームシフトが起こるが、NMDが生じると予想されない
- 欠失が生じるが読み枠がずれない
そもそもLoFを起こす遺伝子をどう決めるの?
そもそもPVS1基準は疾患の原因がLoFによる場合に該当します。PVS1の根拠の強さを決定するにはLoFによる疾患メカニズムを支持する根拠の強さも考慮するべきですが、ACMGガイドラインにはそのための基準が明確に定めれれていませんでした。
本論文ではLoFの根拠の強さを明確化させることで、バリアントの種類によって決定したPVS1基準から最終的な評価へと修正するための基準を作成しました。見てみましょう。
修正なし (最終評価はバリアントの種類によって決定したそのもの)
- 当該遺伝子のClinGenによるGene-Disease Validity評価がStrongもしくはDefinitiveである場合4
かつ - 3つ以上のLoFバリアントがPVS1の評価抜きに病的バリアントとして報告されており、病的バリアントの10%以上がLoFバリアントである場合 (複数のエクソンで報告されていること)
最終評価を1段階下げる (例. バリアントの種類による評価がVeryStrongの場合、最終評価はStrongとする)
- 当該遺伝子のClinGenによるGene-Disease Validity評価がModerate以上である場合
かつ - 2つ以上のLoFバリアントが表現型に関連していると報告されている場合 (複数のエクソンで報告されていること5)
かつ - ヌルモデルマウスで表現型を示す場合
最終評価を評価を2段階下げる (例. バリアントの種類による評価がVeryStrongの場合、最終評価はModerateとする)
- 当該遺伝子のClinGenによるGene-Disease Validity評価がModerate以上である場合
かつ- 2つ以上のLoFバリアントが表現型に関連していると報告されている場合 (複数のエクソンで報告されていること)
もしくは - ヌルモデルマウスで表現型を示す場合
- 2つ以上のLoFバリアントが表現型に関連していると報告されている場合 (複数のエクソンで報告されていること)
PVS1評価をつけるべきではない
疾患の原因としてLoFの根拠がない場合
最後に
今回はACMGガイドラインのPVS1について、ClinGenのSVI WGによるより詳細な評価方法を提示した論文を紹介しました。
一口にPVS1と言っても、実際解釈に困る場合も多いため、このような専門家集団による提言はかなり参考になります。
SVI WGは他の基準についても同様に具体的な評価方法を提示しているため、今後紹介したいと思います。
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NMDの予想は早期終始コドンの位置が最終エクソン内もしくは最後から2番目のエクソンで終始コドンから50bp上流以内に位置しない場合に基づく↩
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関連するドメインが重要であることが実験的に証明されている、および/またはより下流に位置する短縮型バリアントが病的バリアントと報告されている場合に該当する↩
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なお、ハプロ不全が疾患の発症機序として知られている遺伝子の場合は矛盾するデータがない限り、それ単独でPathogenicと分類する↩
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Gene-Disease Validity評価とはClinGenワーキンググループがバリデーションした疾患と遺伝子の関連の強さを示したスコアです。ClinGenのホームページで各遺伝子を検索すると分かります。↩